『Stop Making Sense』を観に行こう

「Stop Making Sense」とは

アメリカのロックバンドTalking Headsのコンサートのドキュメンタリーである「Stop Making Sense」は、今では『羊たちの沈黙』でも知られるJonathan Demmeが監督を務め、1984年に公開された映画。「史上最高の音楽ドキュメンタリー」とも評価されるくらい優れた作品だ。この映画の40周年に向けて、何かと話題の配給会社A24が権利を獲得し、2023年から4Kレストアで公開された。日本では2024年2月2日から全国で公開が開始されている。

日本版ポスター

 ドキュメンタリーとはいうが、舞台裏に迫るようなパートは一切なく、公演のうちいくつかの日の撮影を切り貼りしているのみで、体験としては一本の(そして最高の)コンサートを見るのと同じ感覚だ。

 ショーにはバンド4人に加えて、5人のアフリカ系ミュージシャンが演奏に参加している。

オフィシャルトレイラー

youtu.be

 オフィシャルトレイラーは、David Byrneがかのスーツをクリーニング店から引き取るところから始まるユニークな映像。その後に自転車で帰っているところは、彼のコロナ禍中のブロードウェイ・ショー映画『American Utopia』のラストの続きというファンサービスだろう。

感想

 私はレストア前にすでに二回観ていて、レストアは三回目の鑑賞となる。レストア版については、映像面では特に際立った改善はわからなかったが、音はとても良かった。何よりも大きな映画館のIMAXでこの映画を観られることが感慨深かった。

 席にじっと座って観ることには物足りなさは感じたが、悲しきかなあまり人もあまり入っていなかったために、ビートに合わせて体を軽く揺らしても他の人に影響がないくらいではあった。

 ただ、三度目といってもエンドロールを観るころにはめちゃくちゃ興奮している自分に気づいた。サントラ盤はそれ以上に何度も繰り返して聴いているし、映像面でも新しい発見はそんなになかったが、大きな音で浴びることで何度だって身体が打ち震えるショーだ。

 「頭ではMaking SenseしててもカラダはStop Making Senseじゃねえか……!」ってところか。あるいは、その反対か。

 当時のカルチャーシーンの動向とか、そういった前提知識はほとんど無しに楽しむことができるので、バンドを知らない人にもオススメ。むしろ観てくれ。

 

各曲の見どころなど

 未視聴の人向けというより、観た人と語りたいようなコメントばかりしてしまっているので、とにかくまずは映画を観てほしい。

1. Psycho Killer

 ヴォーカル兼リズムギター、フロントマンのDavid Byrneがラジカセを片手に一人で現れる。ラジカセを置いて、ビートを流し、アコギを弾き始める。1stアルバムの『Talking Heads '77』に収録されている代表曲である「Psycho Killer」だ。

 ビートにはいくらか特徴的なフィルが仕掛けてあり、David Byrneはその度によろけるような動きをする。

 最後のコードを鳴らして曲が終わったあとに、アコギの「ビビり」のようなノイズをあえて鳴らしてるのが良い。

2. Heaven

 続いてTina Weymouthが登場。3rdアルバム『Fear of Music』から穏やかな曲をアコギとベースのデュエットで演奏。

 でもこの曲のコーラス、別にTina Weymouthが歌ってる訳じゃない……。まだ登場してないゲストシンガーが歌っているようだ。

3. Thank You For Sending Me An Angel

 2ndアルバム『More Songs About Buildings and Food』の最初を飾る曲。

 以前、『「Stop Making Sense』の中で一番すごい瞬間はどこ?」と友人と話し合った時、この「Thank You For Sending Me An Angelのイントロ」と決まった。ドラマーChris Frantzが登場して3人で演奏されるこの曲、言葉では語りづらいが、アタマの1小節だけシャッフルビートのように始まって、何事もなかったかのように原曲のスクエアなビートに戻る。最初はミスかと思ったけど聴きなおしてみても、ちゃんと3人が息を合わせているようにしか思えない。耳にひっかかって離さない、バンドのマジカルな瞬間だ。

4. Found a Job

 前曲に引き続き2ndから。Jerry Harrisonが加わってメンバー4人揃い踏みで演奏される唯一の曲。

 単純なブルース進行ながら、ギターのカッティングと、シンコペーション気味なベースで聴かせてくれる面白い曲だと気付かされる。

5. Slippery People

 5thアルバム『Speaking in Tongues』より、バンドの中でも最も粘っこいファンクであり、ゴスペルでもある。ゲストミュージシャンたちが加わってステージは前列後列の二段構えとなる。いよいよ当アルバムのツアーの本編といったところ。

 パーカッションのSteve Scales、ギターのAndy Weir、鍵盤のBernie Worrell、バッキングボーカルのEdnah Holt・Lynn Mabryと、ここで登場するゲストミュージシャンたちそれぞれの聴きどころがしっかり用意されている。Tina Weymouthのベースの音の切り方も気持ちいい。

 曲の最後の、Chris Frantzがスネアを思いっきり叩くところで、アルバム音源の方は慌ててミキサーのツマミを下げたような音量の下がり方をするが、映画の方では特に下げられていなさそうだった。

6. Burning Down the House

 『Speaking in Tongues』からシングルカットされ、ビルボードHot100で最高9位を記録した、バンド最大のヒット曲。

 このツアーの興行にも一役買ったであろうこの曲は、その期待をしっかり上回るようなハイテンションで演奏され、前半のクライマックスだ。George ClintonParliament / Funkadelicのライブでの観客の詠唱から影響を受けたという「家を焼き払え」というキャッチーなフレーズが力強い。曲終盤のDavid ByrneとゲストギタリストのAlex Weirが二人で腿上げしながらギターを弾くところが最高。

7. Life During Wartime

 3rd『Fear of Music』より。「これはパーティじゃない、これはディスコじゃない、ふざけているわけでもない」というコーラスが印象的な曲。

 これまた引き続きクライマックスのようなテンションで演奏される。この曲ではDavid Byrneはギターを持たず解き放たれたように踊り歌う。時にはランニングのように、時にはガニ股を開いたり閉じたり、時にはくねくねしたり、気持ち悪い動き満載だ。

 この映画を「オールスタンディング上映」という形式で観た時はみんなこの曲でみんな真似て、時には通路を駆けながらノリノリで踊っていてとても良かった。

8. Making Flippy Floppy

 『Speaking in Tongues』より。

 照明が落とされ、背後のスクリーンに象徴的な単語がいくつか浮かぶ。ここからしばらくは「暗転パート」とでもいえる。

 一番最初の「Wait a Munite」の問いかけはスタジオ録音にはないが、注意を引く掛け声だ。あまり目立たないがAlex Weirのギターソロが熱い。

9. Swamp

 これも『Speaking in Tongues』より。曲題から連想されるように、アメリカ南部のごとくゴシックな歌詞のブルースを下地に、それっぽくわざとらしい歌唱と・浮遊感あるシンセ・アフリカンなリズムが混ざって一風変わった曲だ。

 いつの間にかオールバックでスーツ姿になってるDavid Byrne。全曲の最後に「Anybody question?」と聞いたりしているので、この間に転換があったんだろう(そもそもこの映画自体ツアーの切り貼りだから全然別の流れかもしれないが)。「ハイ、ハイハイハーイ」というコーラスと共に行進するような動きが印象的。照明が抑えめなのがまた不気味で良い。

10. What a Day That Was

 David Byrneのソロ『The Catherine Wheel』からの曲で、ここではバンド用にアレンジされている。

 私がこの映画で最も好きな曲で、『Remain In The Light』期のような緊迫感あるファンクなヴァースと、開放感たっぷりのコーラスのコントラストがたまらない。Alex Weirのスライドギターのプレイはまるで流れ星のようにきらめいている。クラヴィネット的なシンセもハネが気持ちいい。

 下から見上げるような照明と、その顔をアップで写すカメラワークも良い。バッキングボーカルのEdnah Holt・Lynn Mabryの二人の写りが特にカッコいい。

11. This Must Be A Place

 『Speaking in Tongues』より、「Burning Down The House」に続いてチャートインしたシングル曲。

 まるで家具を配置していくように、楽器たちがお互いの隙間を活かしながら、ミニマルに噛み合って展開されていくこの曲は、この世で最も素晴らしいコンセプチュアルなバンドアンサンブルの一つだと思う。ベースはJerry Harrisonがシンセで弾き、Tina Weymouthは高音のギターリフを弾いている。

 背後に本棚を模したスクリーンがあり、前列のメンバーは真ん中のランプの奥に横並びになる。David Byrneはこのランプを掴み、傾けてしまい、でも倒さないためにまた逆向きに傾けたりする。不安定さの中でなんとか落ち着かせようとするような、心動かされるパフォーマンスだ。

 会場では観客たちは椅子に座って見ているが、この曲の終わりでスタンディングオベーションとなっている様子が映されている。

12. Once In a Lifetime

 彼らの代表作である4thアルバム『Remain in the Light』から。

 全曲で感動のフィナーレといった気分になってしまったところで、すかさず最高が約束されたシーケンサーが流れてきて、「オイオイ」とにやけてしまう。David Byrneもジャケットを脱ぎ、汗だくだ。人生の不可逆性を水の流れに喩え、語りとコーラスを交互に繰り返すミニマルな曲。終盤の場を支配するような大きな音のシンセがかっこいい。

13. (Tom Tom Club)Genuis of Love

 Tina WeymouthとChris Frantzによるバンド内サイドプロジェクト「Tom Tom Club」を幕間劇のようにプレイ。とはいえこの「Genius of Love」という曲自体がヒットしており、このファンキーなリフレインはMariah Careyの「Fantasy」や、Grand Masterをはじめてとした無数のヒップホップトラックでサンプリングされていたりしており、もしかしたらTalking headsのどの曲よりも有名かもしれない。

 Chris FrantzのMC的な掛け声と、Tina Weymouthとバッキングボーカル二人の(あえてこの表現を使うが)ガーリーな歌で進行する。Chris Frantzの「Freeze!」というシャウトと共に彼以外が動きを止め、そしてTina Weymouthがガニ股でハネ出す動きが印象的だが、この動きでThe Raincoatsの『Moving』のジャケを思い出す。音楽性も近いし、参考にしたのか、シーン自体にの流行があったのだろうか。

14. Girlfriend is Better

 Talking Headsに戻って、ステージに明るさが戻る。『Speaking in Tongues』からの曲。この曲の歌詞で「Stop Making Sense」というフレーズがあり、いわば「タイトル回収」になるわけだ。映画のポスター及びアルバムのジャケで存在感を放つ、あの異様に横幅の広いスーツもここでDavid Byrneが「ずんぐり太った白人」といったアイロニーを可視化するかのように着用してくる。そう、今一度考え直すと「Stop Making Sense」と謳いながら、あまりにMaking Senseしている、頭でっかちなパフォーマンスでもある。

15. Take Me to The River

 『More Songs About Buildings and Food』より、偉大なソウルシンガーAl Greenのカバー曲。テンポはスタジオ版よりも原曲に近い。

 コーラスは迫力たっぷりで、この映画のもう何度目かわからない山場(川だけど)の一つだ。

 カウベルを叩くSteve Scalesのかわいい瞬間が二つあり、ひとつめは後列で鍵盤を弾くJerry Harrisonに「降りてこいよ」と呼びかけるも、聞こえてないだろうところ。ふたつめはカウベルにダブをかけられてることに気づいて笑顔になるところ。

 そしてDavid Byrneは例のスーツのジャケットを脱ぎ、さらに謎の赤いキャップをかぶりだして異様さが増している。

 神に赦しを乞うような抽象的な歌詞だが、「Water」「River」といったモチーフが「Once In a Lifetime」のリフレインにも通じており、このセットリストの総決算としてピッタリだ。

16. Crosseyed and Painless

 今度こそフィナーレかと思いきや、メジャー7thコードの爽やかな始まりからミドルテンポのジャムが始まる。何の曲だろうかと思って少しすると聞き覚えのあるリフがギターで弾かれる。そして「ジャッジャッ」というキメと共にテンポアップ。『Remain in the Light』からの名曲だ。David Byrneのスラックスは普通のサイズのため、前の曲とは別の日の撮影だろう。

 Brian Enoと共に作られたコンセプチュアルの極みみたいな曲を、各プレイヤーが汗だくのハイヴォルテージで演奏するのだからたまらない。特にカウベルのビートと共にDavid Byrneが捲し立てるパートがキレッキレ。そして終盤のリフレインの中で入る「タン タン タン タン」のキメでDavid ByrneとAlex Weirが腕をお互いのギターに向けて交差させて静止するところがかっこいい。

 最後のリフレインの中でツアーおよび映画のクルーが登場し、David Byrneはステージを去っていくと演奏は終わる。今度こそ本当の最後だ。

サウンドトラック

open.spotify.com

 今回レストアにあたって、サントラ盤も新しいデラックスエディションが発売。映像にはない公園の追加曲もあり、3rd『Fear of Music』から「Cities」、David Byrneのソロ曲から3rd冒頭の曲へ繋がる「Big Business / I Zimbra」のふたつ。どちらもいい演奏なだけにこれまた映像が観たいという欲が出てしまう……。

 

2023年の音楽アルバム個人的ベスト25

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 2023年リリースの、音楽アルバムの個人的ベスト、25作、ABC順。

 

目次

 

アルバム25選

ANOHNI and the Johnsons『My Back Was A Bridge For You To Cross』

Country : U.S.A.

Label : Rebis Music

Genre : Indie Pop, Blue-eyed Soul

 かつてBjorkの「Dull Flame Of Desire」に参加する彼女の歌を初めて聴いたときには、まるで地獄から鈍く噴き上がるようなその声に畏怖した。この世で最も素晴らしいの声の持ち主だと思った。

 そう、地獄。トランスジェンダーである彼女の曲は、暗澹たる現実の中でいくつもの地獄(そして、それは生来背負うものでは決してなく、我々の社会が作り出してきた地獄である)を味わってきたような悲痛なものだ。

 このアルバムではMarvin Gaye『What's Goin' On』に強く影響されているという。クリエイティブな感情表現としてのゴスペル。「Can't」のシャウトは芯をとらえて響き、「Why Am I Alive Now?」の悲しげなコード進行に乗せて発されるリフレインは、Marvin Gayeのスタイルが最大の抵抗を体現できると思わされる。

 

Billy Woods & Kenny Segal『Maps』

Country : U.S.A.

Label : Backwoodz Studioz

Genre : Alternative Hip Hop

 昨年のFestival de FRUEでBilly Woodsのパフォーマンスを観ることができたのは幸いだった。都会的なラップの対極にあるような、かといって「素朴」で片付けるには確かに誇りと気迫を感じさせるフロウ。

 2019年のアルバム以来にKenny Segullと組んだ最新作は、「旅行」をテーマ。ジャジーで、ローファイ・ヒップホップ的であるがもっとざらついたトラックが印象的。

 まるで朝日のように優しいギターのループバックにした「Soft landing」では、Nina Simoneの「I'm Feeling Good」のフレーズを「『I'm Feeling Good』という節なしで」引用している。

 アルバムの中で特に象徴的な「Facetime」は、移動しながらスマホ一台でどこにでも繋がれたり、逆に自分がいない場所の様子も知れてしまう虚無についての曲。彼はELUCIDとのグループArmand Hammerの方の新作でも「Siri」をモチーフにしていたが、俗っぽいモチーフも用いながら、気が滅入るような現代生活をリリックで表現する。この曲のゲストシンガーはFuture IslandsのSamuel T. Herring。リゾート感を出すための面白い人選だ。

 

Blake Mills『Jelly Road』

Country : U.S.A.

Label : Verve Label Group

Genre : Indie Folk, Americana

 SSWとしてだけでなく、多彩のミュージシャンやバンドでギターを弾いたりプロデューサーを務めたりと幅広い活躍をするBlake Mills。

 リードトラック「Skelton Is Walking」を聴いた時点ですでに打ちのめされた気分になった。もう名曲にしかなり得ないイントロに、優しい歌。そして3分半に及ぶ、今時やる人も少ないだろうファズのかかりまくった泣きのギターソロ。琉球音階のような「unsignable」も耳に残る。本作でも幽玄な音の出し入れが存分に楽しめる。

 

Danny Brown『Quaranta』

Country : U.S.A.

Label : Warp Records

Genre : Alternative Hip Hop

 JPEGMAFIAとの連名アルバム『SCARING THE HOES』ではお得意の高音で素っ頓狂なラップを展開していた彼は、本作では「Tantor」なんかではまだそのノリながら、後半にいくと低い声で本音を吐きだすようになってくる。

 「Quaranta」はイタリア語で40。「サブカルは40で病む」と言ったのは吉田豪だったか、アートワークのDannyも悲しい顔を見せている。言われてみればヒップホップで老いと向き合った作品を知らない(不見識なだけかも)。

 「ひとりぼっちでピエロのように思える」と悲しく独白する「Down Wit It」から、「もう一度やってみよう」と静かに締めくくる「Bass Jam」までのメロウな一連が美しい。

 

Domenico Lancellotti『Sramba.』

Country : Brazil

Label : Mais Um

Genre : Samba, Nova MPB

 ブラジル・インディーのプロデューサー・コンポーザー・ドラマーとして活躍する、というこの人が日本でそれなりに語られてるのは一体どんな文脈なのかはあまりよく分かっていない。2018年の「The Good Is A Big Good」ではThe High LlamasのSean O'haganがプロデュースしていたりしたが、音響派的な文脈だろうか。

 本作の特徴はモジュラーシンセを大胆に取り入れたサンバ。その脱構築っぷりはTom Zéの歴史的名盤『Estudando o Samba』の域にも近づいている。サンバを軸にしたリズムの冒険に、音響派的な清涼感あるギターが乗った「Diga」がかっこいい。歌物としてもジャジーな「Nada Sera de Outra Maneira」が名曲。

 

Everything But The GirlFuse

Country : U.K.

Label : Buzzin' Fly

Genre : Indie Pop, UK Garage

 ネオアコの中心であったレーベルCherry Red RecordsからTracey ThornとBen Wattで結成されたデュオ。の新作は24年ぶりであると。

 UKガラージのようなビートが意外に思えるも、洒脱な佇まいはむしろコクを増す一方で、精力的にソロ活動してきたBenと、深みを増したTraceyのそれぞれの良さが出ている。ダンスフロアのきらめきと内省が同居するのもイギリスから生まれる音楽の愛おしさだ。チルアウトする「Lost」がお気に入り。

 

Febueder『Follow The Colonnade』

Country : U.K.

Label : 自主リリース

Genre : Experimental Pop

 競馬場で有名なイングランドはアスコットの二人組。リードボーカル兼マルチインストルメント奏者Kieran GodfreyとパーカッショニストSamuel Keysellで構成。

 アートワークのイメージからPenguin Cafe Orchestraを連想するが、まさにそのようなフォーク・クラシック・民俗音楽・ミニマル、加えてレゲエやクラブミュージック混ぜ合わせたアヴァンポップを、Panda BearやBeirutあたりのセンスで歌物にしてるかのよう。Black Country, New RoadやCarolineに続き、温故知新な音の解釈が見事な一枚。

 

Fenne Lily『Big Picture』 

Country : U.K.

Label : Dead Oceans

Genre : Indie Folk

 枯れたギターの音はしっかりとした質感を伴っていて、空っ風から逃げた屋外でふと溢すような、距離は近いけど甘さのない怯えるような声。

 「Map Of Japan」の2コードの往復で落雷のようなストロークThe Jesus and Mary Chainのの「Darklands」を連想する。「Lights Light Up」は、アートワークのスノードームのように小ぢんまりながらも確かなビートの組み立てを感じる。

 Fenne Lilyはイギリスのシンガーソングライター。余談だが、私がふと思いついた「Campcore」というジャンル名を思いついてChat GPTに(Mount Eerieあたりを想定して)「代表的なアーティストを挙げよ」と無茶振りした結果、トップに上げられたのが本アルバムのリリース前の彼女の名前である。聴いてみてびっくりするくらい求めていた発見だったが、ソースを尋ねてみたら同じようなジャンルがRedditで誰かが考案していたらしい。

 

GEZAN with Million Wish Collective『あのち』

Country : 日本

Label : 十三月

Genre : Alternative Rock

 バンド4人に加えトロンボーン・パーカッション・総勢15名のコーラス隊Million Wish Collectiveを加えた大作。大人数の分厚いコーラスとトライバルなビートは圧倒的な説得力。大人数で演奏される音楽はもうそれだけで最高。バグパイプと長老みたいな謎のキャラの語りかけで始まる胡散臭さはあるが、怒りと歓びを強烈な倍音で彩る真摯なトータルアルバムになっている。

 アルバムが後半になるにつれボルテージは上がっていき、「JUST LOVE」のクライマックスから(謎の長老の語りを挟んで)あまりに素朴な「リンダリリンダ」の締めくくりは魂に語りかけてくる。

 しかし、中村一義七尾旅人銀杏BOYZのような、真面目でハイボルテージなトータルアルバムが生まれるのも、日本の文化的な特徴に関わりがあるんだろうか。ちょっと興味がある。

 

JPEGMAFIA & Danny Brown『SCARING THE HOES』

Country : U.S.A.

Label : PEGGY

Genre : Alternative Hip Hop

 ヒップホップ界のサブカル野郎どもというか、アンダーグラウンドの旗手たちとでもいうべきか、JPEGMAFIAとDanny Brown(この記事内で2作目!)のタッグの奇策。

 まず一聴してみてもわかるとおり、コラージュ的に飛び交うサンプリングの嵐。「Kingdom Hearts Key」の坂本真綾なんかはまだしも、「Garbage Pale Kids」での80年代の北海道のローカルCMを使おうなってなんてどうやったらそこに行き着くんだ。

1985年 懐かしい北海道のCM - YouTube

 太いドラムビートを力強く聞かせつつも、インダストリアルのように破壊的な展開も。二人の掛け合いもノってる。奇抜さだけでは片付けられない良作。

 

Kara Jackson『Why Does the Earth Give Us People to Love』

Country : U.S.A.

Label : September

Genre : Indie Folk, SSW

 これはすごい。70年代初頭を思わせる不穏なフォークにNina Simoneのような醒めた声が乗る、聴いたことあるようで無い。かといって決してノスタルジックな音質に縮こめていたりしていない。そんな第一印象に感嘆しているうちに、「free」あたりで時間感覚が狂ってくる。「rat」のフェイザーかかった声に痺れる。「curtains」のベースラインに無常を覚える。緩やかにトリップするアルバムだ。

 このアルバムの真価は詩にあるのは間違いないのだろう。特にタイトル曲は髄に染みるまで聴き込みたい壮絶な歌詞だ。

 

Lana Del Rey『Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd』

Country : U.S.A.

Label : Interscope

Genre : Art Pop, Dream Pop

 やりすぎなほどに甘美でノスタルジックな作品をコンスタントにリリースし、熱狂的な信者とも言えるファンをたくさん抱える大スター。彼女が受け入れられるような時代は淫歩を止めてるってことだろうか?いや、このアルバムのタイトル曲で取り上げられる(Eaglesの)「Hotel California」も同様に退廃的なテーマの大ヒット曲だ。アメリカのポップス史はそんな繰り返しである。

 アルバムの白眉は「A&W」。ファーストフードチェーン企業のようなタイトルは「American Whore(アメリカの売春婦)」を意味する。緊張感のあるコード進行から甘いサビをピアノで弾き語る前半、アシッドなベースが入ってきてドープなビートに、時折Led Zeppelin「Rain Song」のメロトロンを思わせるフレーズを挟む後半。とても正気で聴いていられない。

 

Lil Yachty『Let's Start Here』

Country : U.S.A.

Label : Quality Control Music

Genre : Psychedelic Rock, Psychedelic Soul

 アトランタのラッパーの5作目。トラップで有名な人程度の認識だったが、トラップでイメージするような細かく刻まれるハイハットや刺激音の応酬はほとんどない。

 1曲目を聴くと驚くことに『Animals』あたりのPink Floydのようだ。オールドロックばかり聴いてきた私がこれで耳を引かれてしまうのもしてやられた気分だ。画像生成AIが一般人に広く公開されてすぐの頃にリリースされたこのアートワークのキャッチーなアイロニーも、Pink Floydを感じさせなくもない。

 プロデューサーの名前にはUnknown Mortal OrchestraのJake Portraitや、Yves TumorのアルバムもプロデュースしたJustin Raisenの名前があり、意図してサイケをやっているようである。トラップとサイケデリック・ロックの精神には似たようなものを感じる。実験的というよりは一種のルーツ探求のようなものかもしれない。

 そのサイケな混沌の中で「sAy sOMETHINg」のような「エモい」メロディも沁みる。

 

Meg Baird『Furling』

Country : U.S.A

Label : Drag City

Genre : Indie Folk, Psychedelic

 Espersでボーカルをつとめたりなど、ゼロ年代からサイケデリックやフォークで注目されてきたMeg Bairdのソロ名義最新作。シカゴのレーベルDrag Cityからリリース。

 音楽性はMazzy Starや、Sandy Denny期のFairport Conventionあたりを彷彿とさせる、中毒性を感じさせるフォークロック。特に好きなトラックの「Star Hill Song」なんかは、溶けてしまいそうなほどの夢見心地で、酔生夢死に引きずられるような危うささえ感じる。

 比較的ビート感のある名曲「Will You Follow Me Home」を後半に持ってきてくれてるおかげで、100%弛緩した状態で聴き終わらずに済むのもありがたいのかもしれない。

 

Meshell Ndegeocello『The Omnichord Real Book』

Country : U.S.A.

Label : Blue Note

Genre : Jazz, Neo Soul

 ネオソウルの先駆けとも言われるらしい、シンガーソングライター・ベーシスト。なんでこんな偉大な音楽家をいままで知らなかったんだ、と思ったが、ずっと前に聴いていたJohn MellencampによるVan Morrisonのカバー「Wild Night」に参加してると知って驚いた。

 本作は多彩なゲストを迎え、ジャズの名門「Blue Note」からリリースされたアルバム。8分超のリードトラック「Virgo」は乙女座銀河団を介して精神を解く、スペース・ファンクでかっこいい。また、「The 5th Dimension」なんかでは深いリバーブのギターの中に畳み掛けるジャズドラムが入り、大小入り混じった時間の流れを体感させられる。

 「Clear Water」から「ASR」の冒頭なんかではSly & The Family Stoneのスタイルの掛け合いなんかも聞かれる。歴史への敬意と、スペーシーな精神性を演奏で体現する、アフロフューチャリズムな傑作。

 

Mitski『The Land Is Inhospital and So Are We』

Country : U.S.A.

Label : Dead Oceans

Genre : Indie Rock, Art Pop

 日系アメリカ人ミツキ・ミヤワキの最新アルバム。前作「Laurel Hell」は息が詰まるような痛切なアルバムだったが、今作はアンニュイな味を残したまま、比較的リラックスな雰囲気に聴こえる。カントリーの聖地ナッシュビルで録音された演奏であり、ヒットシングル「My Love My All Mine」などでペダルスティールなんかも登場する。70sのシンガーソングライターを想起させるその作風は、Weyes BloodやFather John Mistyにも近づいてるが、作品にも参加したプロデューサーDrew Ericksonのオーケストレーションの力もある。

 一方で「Buffalo Respected」なんかはオルタナ色が強めで、「The Deal」は『The Bends』の頃のRadioheadのよう。芯はそのまま、シンプルにいい曲を聞かせるいい作品。

 

Noname『Sundial』

Country : U.S.A.

Label : 自主リリース

Genre : Jazz Rap, Alternative Hip Hop

 シカゴの女性ラッパーの最新作。ラジオパーソナリティのような軽快さでフロウを聴かせる彼女は「ラッパー」より「詩人」として呼ばれがちだが、彼女はそれを好まないらしい。

 バンド演奏によるジャズやボサノヴァ風味のトラックをバックにしたリラックスしたムードとは裏腹に、ラディカルな切れ味を携えたリリックが印象的。「namesake」という曲を挙げると、(軍事産業とも関わりが深い)NFLスーパーボウルに出演したBeyonceRihanna、Kendrick Lamarを批判した後に、コーチェラでのNoname自身の出演について自己批判するようなくだりのキレがまた鋭い。

 WebメディアTURNの解説記事がとても良かったのでおすすめ。

turntokyo.com

 

Peter Barclay『I'm Not Your Toy』

Country : U.S.A.

Label : Numero Group

Genre : Rare Groove, Soul

 Spotifyから何かサジェストされたなと思ったらあまりに良すぎて、確認したらやっぱりNumeroレーベルからの発掘リリース。即アナログまで購入した。宅録ソウルシンガーPeter Barclayが90年代に出した2枚のアルバムから選曲した編集盤。

 クィアであり、90年代のうちにエイズで亡くなった彼の作風は、シンセによる澄んだアンビエンスの中で、美しいファルセットを聴かせてくれる。

 特徴をピックアップすればFrank Oceanにも通じるし、2021年に再発で「発見」されたBeverly-Glenn Copelandも連想する。こうやって新作を並べておきながら、私が一番出会って嬉しいのはこういった過去の秘宝かも知れない。

 

The Rolling Stones『Hackney Diamonds』

Country : U.K.

Label : A Polydor Records

Genre : Rock

 2016年のブルースのカバー作『Blue & Lonesome』を飛ばすと、オリジナル作としては2005年の『A Bigger Bang』以来。個人的にもリアルタイムで聴けるのは初なのでとても嬉しい。『Tattoo You』、あるいは『Some Girls』以来の傑作と言われているが、同感である。

 2021年にドラマーのCharlie Wattsが亡くなったが、その事実がこのアルバムを完成させる大きな動力となったのは間違いない。Charlieが残した録音は「Mess it Up」「Live By The Sword」の2曲。Charlieはかなり独特なドラマーだが、それ以外の曲で叩いているSteve Jordanも健闘している。

 ファンが期待している以上のストーンズ節を出しつつも、「Angry」の歌メロなど新鮮に感じる部分もある。「Get Close」ではDinasour Jr.やOasisといったストーンズへのリスペクトを公言するオルタナティブロックバンドを逆に吸収したような味さえある。

 ボーカルへのピッチ補正や、バキバキに加工されたドラムあたりは賛否両論だが、悪趣味なメッキを貼りながらショーを盛り上げるのが彼らのような時代のロックのやり方だと思っているので個人的には賛だ。

 

Rubel『AS PALAVRAS, VOL. 1&2』

Country : Brazil

Label : Dorileo

Genre : Nova MPB

 個人的な話だが、2023年はDuolingoでポルトガル語をだらだらと学習し始め、250日以上続いている。この「As Palavras」も「The Words」だと分かって嬉しい。私的な話終わり。

 Rubelはブラジルのインディー、いや現代のMPB*1の中心にいるかもしれない。2018年の前作「Casa」はヒップホップを取り入れ「ブラジルの(Frank Oceanの)『Blonde』」とまで呼ばれたらしいが、今作でもBKやMC CarolといったファンキのMCを迎え入れている。加えて、今作ではBala Desejo、Luedji Luna、Tim bernardesの2023年に初来日した三者が参加してるのもすごい。そして、レジェンドMilton Nascimentoの名前まで。彼の素晴らしいファルセットがアンビエントな使われ方をしていて贅沢だ。

 多様な音楽を内包した彼の音楽はブラジル音楽の過去と未来、現在のさまざまなコミュニティを繋げうるものかもしれない。

 

Sufjan Stevens『Javelin』

Country : U.S.A.

Label : Asthmatic Kitty

Genre : Indie Folk, SSW

 2015年の『Carrie & Lowell』の続編で、私的なテーマが中心。弾き語り中心だが、電子音や女声コーラスによるアレンジで、比較的重苦しさはやわらいでいる。それでも、冒頭から「Goodbye Evergreen」と歌い、彼らしいギターストロークの上でも「Will  Anybody Ever Love Me?」と問いかける様には時間の儚さと向き合う痛切さを感じる。

 アルバムのエンディングはNeil Youngのカバー「There's a World」。全盛期のNeil Youngの中でもあまり語られない曲だが、Sufjanのカバーではコードやメロディの進行が大きく変えられてる。原曲の詩がまったく別の意味合いで際立つ名カバーだ。

 

Wilco『Cousin』

Country : U.S.A.

Label : dBpm

Genre : Alternative Country, Indie Rock

 近年のWilco、特に前作『Cruel Country』では、「Dad(Dad Rockとかの意味で)」を背負いすぎて変に縮こめてるんじゃないかと思ってた。そういう役回りはThe Nationalとかの方がよっぽど上手く立ち回れているし、カントリーのアルバムとしてもBilly Braggと共にWoody Guthrieを掘り起こした『Mermaid Avenue』シリーズの豊穣な演奏経験はどこに行ってしまったんだろう(とは言ってもメンバーは結構変わってるが)という、というぐらいに「らしくない」と思っていた。

 本作はプロデューサーにCate Le Bonを迎えている。バンドよりだいぶ年下で、エキセントリック寄りの作風で、引き出しの多い彼女の参加は、目に見えてバンドにいい風を送り込んでいる。

 「Evicted」や「Levee」では、まるでReal EstateかというようなモジュレーションのかかったギターをWilcoを聴けて新鮮だった。「Infinite Surprise」「Cousin」「Meant To Be」などでも、今までのWilcoにはありそうでなかったフレーズやリズムが飛び出してくる。Jeff Tweedyのポップセンスと、『Ode To Joy』あたりの一音一音に対するこだわりが、Cate Le Bonのセンスによってリフレッシュされた。

 

Yo La Tengo『This Stupid World』

Country : U.S.A.

Label : Matador

Genre : Alternative Rock

 ベテランのオルタナティブ・ロックである彼らの最新作が好意的に迎えられたのは、数ある作風の中で真に彼らしか出せない音を再認識できたからだと思う。

 軽くも芯を捉えたドラムに、重量を感じさせるベースのグルーヴ。静かに囁くアイラとジョージアのヴォーカル。そして軋み、唸り、這いずり、でもなぜか心地いいギターノイズ。冒頭の「Sinatra Drive Breakdown」から暗く長い道をドライブするような魅力たっぷり。バイクのエンジン始動音のような「Fallout」のハイゲインなリフもかっこいい。

 ハイライトは最終曲「Miles Away」。反響する長いトンネルを走る車内での会話のような、新境地のアンビエンス。それでもどこか懐かしい。

 

Young Fathers『Heavy Heavy』

Country : U.K.

Label : Ninja Tune

Genre : Art Pop, Alternative Hip Hop

 タイトルとアートワークから「いかに攻撃的でエクスペリメンタルな音が飛び出してくるか」と身構えていたけど、蓋を開けてみると祝祭的でトライバル、そしていくらかのアイロニー混じりのインディーポップだった。GEZANの新作と共鳴するようだ。

 「Drum」の後半のパートなんかはAnimal Collectiveかと思うくらい開放的。そして荘厳な「Tell Somebody」に雄大な「Geronimo」。お気に入りはズールー語・ショナ語で高らかに歌われる「Ulutation」。

 

Yves Tumor『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』

Country : U.S.A.

Label : Warp

Genre : Psychedelic Rock

 2020年の前作『Heaven To A Tortured Mind』から引き続き「グラム・ロック」を影響元として作られたアルバム。今最も「泣きのギター」を聴かせてくれるアーティストかも知れない。「Parody」「Heaven Surround Us Like a Hood」なんかは特に泣ける。

 「God Is a Circle」の吐息から始まるこのアルバムは、やたらと熱気を感じる。今年のフジロックはかんかん照りだったが、彼の出演した屋内のレッドマーキーはやたらと蒸し暑い(そして最高のステージ)だったように思う。ロックバンドが長い時間をかけて消してきた臭いを、彼はまとっている。

 

振り返り

 2023年には誰もが認めざるをえないような主人公の話はあんまり聞かなかったと思う。PitchforkやRolling Stone誌の年間ベストで挙げたSZAもリリースは2022年だったし。TURNの年間ベストなんかはだいぶ毛色が違っていて方向性が見えなかった。一方で批評の外では大スターMiley Cyrusが記録的ヒットを出していたりもする。

 個人的にはここ1年はロックよりヒップホップやブラジル音楽ばかり聴いていたが、結局リアルタイムを体験していない90年代までの作品を軸足にして捉える聴き方をしている。おかげで新しい潮流の動きにはとことん疎いままここにいる。私はもともと60年代〜90年代の音楽ばかり聴いてきた、かなり保守的な耳の人間なので、オルタナティブなフィールドからそういった時代の参照を見つけることで嬉しくなってしまう。そうするとどうしても蘊蓄くさくなってきてしまうので、それを自覚すべきことを意識しながら、「なぜそれが悪いのか」についてもう一歩踏み込んで考えることにも興味はある。

*1:「ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ」。ボサノヴァ登場以降のブラジルのポピュラーミュージックを指すが、範囲は曖昧

FUJI ROCK FESTIVAL'23 行ってきた

FUJI ROCK FESTIVAL'23に三日通しで行ってきた。

観た全てのアクトではないが、それぞれの演奏などの感想や記録を残しておく。

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1日目

Sudan Archives

 昨年の新譜の中で好きな「Milk Me」からスタート。

 擦弦楽器モジュレーションかけてクラブミュージックに乗せるという点でArthur Russell を連想するカッコよさ。

 「Selfish Soul」はこれからもアンセムであって欲しい強度の名曲。

Yves Tumor

 レッドマーキー特有の低音のハウリングがかえってサイケデリック度を上げていて良かった。ボヤボヤした混沌の中でグラムロックみたいな装いのギタリストが弾きまくるのもまた映えた。本人は裸エプロンみたいな格好(パンツは履いていた)でお菓子を投げたりしていた。


Yo La Tengo

 過去に単独で2回も観てながらも、Daniel CaesarやDenzel Curryを諦めてまでも観に行ってしまった(後者はちょっとだけ観れたけど)。

 「インディーロックの至宝」という表現をよく見かける彼らだが、この3人にしか作れない時間というのは確かにある。

 今回観て思ったのは自分はGeorgia のドラムがかなり好きだということ。特にアップテンポの曲だと、Jamesのモーターエンジンのような動力を感じさせるベースに対して、部品たちがぶつかり軋むように呼応する、そんなドラム。

 

The Strokes

 Julian Casablancasがひたすらに「おもしれー男」だった。

 歌詞を覚えておらず、1番と2番で同じ歌詞を歌ったり、ときには「ンアーアー」ともう歌えてなかったり。ベースのニコライには変な絡み方するし。Julianがそんなでもバンドはしっかり成立しているからすごい。

 2020年の最新作から1stの名曲群まで並べてもしっかり一貫性があって、なおかつ淘汰されない強固さを感じた。

 

2日目

GEZAN with Million Wish Collective

 新譜『あのち』の曲を中心に、総勢20名以上の編成でトライバルで厚みのある演奏を披露。

 グリーンステージのモニターに、各メンバーががフォーカスアップされていき、それぞれの人生のこととか考え出してしまうと気持ちの置きどころがわからなくなってくる。

 ゲストに下津光史やTOSHI-LOWらが出てきて愉快だった。

 

Weyes Blood

 Karen Carpenterを想起させる歌声を軸に、澄んだ青空の下で歌うような、あるいは古い映画のような、退廃とノスタルジアのプリンセス。純白のドレスのマント(?)を楽しそうにヒラヒラさせるNatalieの振る舞いが印象的だった。

 Andromedaのスライドギターパートがあまりに心地よかった。あとGod Turn Me Into Flowerも大好き。

 演出が素晴らしかっただけにレッドマーキーの低音のハウリング具合が不釣り合いでそこだけ残念。


Caroline Polacheck

 実験的なところもあるポップ・ディーヴァな印象だったが、ステージに立つと人柄の良さも際立っていた。

 SOPHIEやSinead O'Connerに捧げた曲もあり。

 ステージ上で共演もしたWeyes BloodことNatalie Laura Mailingとはその後仲良く箱根旅行もしたそう。

 

Slowdive

 開演前の入念なサウンドチェックの甲斐もあって、音はとても良かった。

 自分は「いかにもシューゲイザー」的な部分には疎外感を感じることもあったが、彼らのアルバムのうち最も好きな『Pygmalion』から「Crazy For You 」をやってくれたので満足。隙間のあるリズムが好きなんだ。


Cory Wong

 Vulfpeckでイメージされるカチカチのパーティファンクもあれば、結構スロウな曲もあったりでショーマンとしてのメリハリがすごい。

 あんまり詳しくなかったので彼をVulfpeckの正式メンバーだと思ってたがそうではないらしい。(そしてそのあたりにバンドの継続のための拘りがあるらしい)


Louis Cole

 Cory Wongが光のパーティ・ファンクならこちらは闇のパーティ・ファンク。

 ルイスのドラムを中心に、演奏の歯切れの良さに筋肉を感じる。

 無茶振りソロに応えるサックス奏者もすごかった。ツッコミどころが多かったゆえにもっと彼のことたくさん知っておけば良かったな……。


長谷川白紙

 深夜のレッドマーキーステージにならされる爆音エクスペリメンタルポップ。影絵のように気持ち悪いうごきを入れてくるのも良かった。これがブレインフィーダー……!(Louis Coleもそうだが)

 

3日目

Oki Dub Ainu Band

 カラフトアイヌの伝統楽器トンコリの奏者のOKI率いるバンド。

 「KON KON」で客に歌わせるパート。ちょっと複雑で長めだけど、去年のFRUEでのDeerhoofのそれよりは易しかった。

 音源からはもっとクラブミュージック寄りかと思ってたけど、ベース・ドラムの生演奏を聴くとかなりグルーヴィだなと思った。

 伝統音楽とポピュラー音楽の融合、このバンドでしか聴けないものがたくさんあって良かった。


John Carroll Kirby

 100 gecsと悩みこっちを観た。

 今年に鬼籍に入った坂本龍一高橋幸宏に捧げる、と「戦場のメリークリスマス」「Rydeen」を披露。この日は他のアクト(FKJ、Neil Francis、Ginger Root)でもYMOメンバーの曲を取り上げており、改めてその空白を強く感じた。

 1日目のYves Tumor のお菓子、2日目のWeyes Bloodの花に続き、卵形のシェイカーが投げて配られる。なんでレッドマーキーのアクトは何かを投げて配りたがるんだ。

 ゲストボーカルにはアルバムでも共演したEddie Chacon。

 

Black MIDI

 プログレッシブ/カオティックなパートで圧倒され呆然とさせられた後にノりやすいパートをご褒美のようにくれて、まるで依存症を生み出す仕組みみたいだった。「John L」の掛け合いが特に最高だった。

 かつて新しい地平を切り開いてきたにもかかわらず全然生まれなかったKing Crimsonのフォロワーは、もしかしたらこのレベルまで来ないと許されなかったからかもしれない。

 

Weezer

 Lizzoがなかなか始まらないグリーンステージを後にして、モタモタしてると人がいっぱいになりそうなホワイトステージへ。

 「My Name Is Jonas」が始まってからはちゃめちゃにもう歌ったりノったり。Weezerの歴史のロードトリップというテーマのもとに一曲ずつ用意された映像も見事。個人的に一番良かったのはリヴァース1人の弾き語りから始まった「Only In Dreams」。

 他の海外アクトが2、3センテンスの日本語MCでサービスしてる中でやたらとリヴァースはほぼ日本語でMCしててうますぎる。

 もうロックは若さのみが取り柄になるようなエンターテインメントではとっくになくなっていて、ベテランの経験の厚みがしっかり今の音として聴けるという。

How cool is that?、って。

 

その他

天候

 今回は1日目に少し雨が降ったのを除いておおむね晴天だった。……と書くと「天候に恵まれた」という印象が出てしまうが、真夏のカンカン照りなので暑い暑い。でも風の心地よさもあり、東京よりマシなんじゃないかと思ってしまう。

 そしてちょっと降った雨については、上着とポンチョを持ってくるのを忘れた(というか一回出した後しまい忘れた)。四年前のフジロックでは大雨にやられて体調崩したというのに、舐め過ぎているのではないだろうか、自分。

会場や運営

 いろんなところで言われてるけど、電波が悪いせいで出店の電子決済のオペレーションがとにかく遅く、結果として現金での支払いが増えたり、行列が長くなっていたのがちょっと不満だった。

 オレンジカフェエリアは音楽もなく殺風景だったと言われてたが、夜に遠くからの音に耳を澄ましながら静まり返った喫煙所に行くのとかは楽しかった。

 

おしまい。

2022年の音楽アルバム個人的ベスト20

 2022年はなんとなく「サブスクの自動再生のアルゴリズムに任せひたすら新譜を掘っていく」みたいなことをあえてやっていた。メディアにまだ名前のないようなものも見つけたりしてそれはそれで楽しかったが、やっぱりどうも個々への思い入れが少なくなってしまったように思う。

 あとやっぱり数をこなすと自分の好みの偏りが見えてくるのは面白かった。ざっくりジャンル分けするなら「70sっぽいSSW」「アメリカーナ」「音響系フォーク」「ある程度ポップ寄りなニューエイジアンビエント」「オルタナティブR&B」あたりかな。

 もう一月も終わるけど2022年のアルバム20選です。

20. John Carroll Kirby『Dance Ancestral』

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 ジャズやニューエイジをメインとして演奏する鍵盤奏者の新作は、より洗練されてビート感も強め。1曲目"Dawn Of New Day"では、ニューエイジ・ミュージックのレジェンドLaraajiを迎えている。

19. Bruno Berle『No Reino Dos Afetos』

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 痛快なくらいわかりやすいテープ一発どりのパーカッシブなボサノヴァ。この爽やかな空気感が続くだけで心地いい。

18. Cass McCombs『Heartmind』

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 アルバム冒頭の、 C#m7-5 → Cmaj7 → G の進行を歪んだギターで奏でるところからもう最高。爽やかな"Karaoke"とか、土臭い"Unproud Warrior"とか、フォークロックの芯を捉えたような演奏が沁みる。

17. Obongjayar『Some Nights I Dream of Doors』

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 ナイジェリア出身のロンドンのミュージシャン。エッジーな"Message in Hammer"や、サックスプレイヤーNubya Garciaを迎えた雄大な"Wrong for It"、内省的な"I Wish It Was Me"とバラエティーに飛んでるけど、全体的にポップ。音の一つひとつに力強さを感じる。

16. ROSALÍA『MOTOMAMI』

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 「DESPECHA」がTikTokから大ヒットしてもはや時の人だが、元はギター一本でフラメンコを弾き語りでデビューしたらしい。
フラメンコに加え、レゲトンとかアフロポップとかごちゃ混ぜカオス。
「あなたをHENTAIにしたい(意訳)」と歌われる"HENTAI"など、変に日本語も耳につくが、"SAOKO"なんかはアフリカ起源のスラングだったり、無国籍的に言葉が交わされる。

15. The Zenmenn『Hidden Gem』

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 「Outro Tempo」等で有名なアンビエントニューエイジの重要レーベル「MUSIC FROM MEMORY」からリリース。70~80sくらいの都会的なAORをベースに、隙間の多いアンビエンスで聴かせる作品。"Ordinary Time"のハーモニーなんかにウエストコーストぽさをたっぷり感じてニッコリ。

14. Florist『Florist』

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 アンビエントな電子音の小品と、穏やかな弾き語りで構成された2枚組。聞き逃してしまいそうな自然環境の音を拾ってるようで、静かながらも懸命な力強ささえ感じる。

13. The Comet Is Coming『Hyper-Dimensional Expansion Beam』

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 Shakaba Hutchings率いるトリオの2ndアルバム。Pファンクの系譜のような宇宙的ファンク・ジャズ。"PYRAMIDS"に顕著だが、アシッドハウスへの接近もあってスリリング。アートワークもかっこいい。

12. Aldous Harding『Warm Chris』

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 耳馴染みのいい古典的なポップのようで、よく聴いているといろんな声が登場する違和感に気づく。ある時は少女のような軽やかな声、ある時は酒焼けたように、ある時はどこか素朴で無頓着なように。いくつものキャラクターの使い分けは、"Tick Tock"のようにひとつの曲の中で行われることもあり、一体誰の声を聞いているのかわからなくなるような感覚が面白い。

11. Maria BC『Hyaline』

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 空間系エフェクターをかけて低弦のアルペジオを中心に惹かれるギターと、冷ややかに歌われる歌。
形式的にはベッドルームポップかもしれないが、むしろフィールドレコーディング的な「外の」感性で録られているようにも思えて、Mount Eerieなんかにも通じるものがある。

10. Perfume Genius『Ugly Season』

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 アルバム自体は2022年リリースだが、2019年に上映されたダンス作品「The Sun Still Burns Here」のために提供された楽曲群とのこと。
彼のディスコグラフィーの中でもとりわけ荘厳・シリアス。繊細な息遣いとパーカッシブな電子音の共存も見事。

9. Naima Bock『Giant Palm

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 ギリシャ出身、元Goat Girlのメンバーだった彼女がSub Popからリリース。地中海らしい穏やかさや、ブラジル的な情熱を携えた豊穣なフォーク音楽。組曲のような”Campervan”はまるでNeutral Milk Hotelのような圧巻。

8. SAULT『Untitled (God)』

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 2022年だけで5枚(そのうち4枚は11月に一気に)リリースした、謎の音楽集団SAULT。
それぞれポストパンク寄りなもの、ハードロック寄りなもの、アフリカンビートを強調したもの、クラシカルなものなどあるが、本作はゴスペル・R&B寄りで最も収録曲の多い一作。
捉えどころこそ少ないけど音数が少なく、タイトじゃない緩めなビートが心地いい。

7. Alex G『Cross the Sea』

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 かつて「オブスキュア」とも評された掴みどころのない宅録シンガーソングライターは、少しづつ輪郭を出すようになり、今作ではバンドサウンドが主体となる。
そんな彼なりの折り合いも見える中で、アルバム冒頭と"Miracles"で印象的な「After All」という諦念めいたフレーズがかえって切実に聞こえる。
でもやっぱり"Cross the Sea""Blessing"といった曲でドラッギーな電子音も消えてなかったり。

6. Sudan Archives『Natural Brown Prom Queen』 

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 アルバムタイトルやリードトラック"Selfish Soul"に表されるように、黒人女性として生きる困難さの中でアイデンティティを強く押し出したアルバム。
刺激的なハウスや抒情的なソウルバラードの数々。
”Homesick (Gorgeous & Arrogant)”をはじめとした、潰されたようなヴァイオリンは迫力がある。

5. caroline『caroline』

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 スローコア+チェンバーポップ、というベースのジャンルだけで言えばBlack Country, New Roadなんかと近いしMicrophonesなんかが好きなんだろうなという異次元の荘厳さを感じる。
”Good Morning (red)”を聴いていて思ったが、「権威的でオペラチックな男声が張り上げれられる」というだけでもなんとなく英国的なアイロニーを感じる。

4. Yves Jarvis『The Zug』

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 まるで60’sのサイケでジャングリーなソフト・ロックに、宅録感まるだしのローファイなボーカルが乗る。一曲の境目もよくわからないキラキラした楽曲群はCaptain Beefheartのようなつかみどころのなさもある。

3. Big Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』

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 録音や作曲の質にばらつきがありながらも、丸ごとパッケージングしてCD2枚組くらいのボリュームで出される作品というのは何かそれだけで好感を抱いてしまう。"Wake Me Up To Drive"なんかを聴くと、彼らなりの『69 Love Songs』を目指したのかなと思う。
意外なくらい全体的に脱力したカントリーが並ぶ中で、"Simulation Swarm"には背筋を正されるような緊張感があり、そう言った瞬間がたまらない。

2. Okada Takuro『Betsu No Jikan』

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 フォークやジャズとして豪華なゲスト陣だったり、John Coltraneの"Love Surpreme"の奇妙なカバーにまず目を奪われてしまうが、そんなシーンの話をするよりかは、これは「別の時間」と題されたアルバムであって、とにかく夜の海辺とかを歩きながら一人で聴くのがいいのだろうなと思う。"If Sea Could Sing"が白眉。

1. Raveena『Asha’s Awakening』

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 インド系アメリカ人ソウルシンガーの2ndアルバム。
これが一番良かったと思うのはやはり自分にとってのアクチュアリティがあったとしか言えず、
じゃあそれは何か、と因数分解すると、「」
"Kaathy Left 4 Kathmandu"なんかはまるでミツメみたいなゆるくも粘っこいビート。
 「メディテーション・ポップ」とでもいいたい、無理のないポジティブと心地よさのアウトプット。

最近見たライブの感想メモ

ここ1ヶ月くらいでライブをたくさん観たので感想を簡単に書き残します。

Festival de FRUE 2022(11/5・11/6 つま恋リゾート)

the Hatch

  • 特に予習もせず観たけどNo Wave感あるカオティックさがかっこよかった。
  • そんなバンドなので「いつもは夜にやるのでこんな早い時間にやるのは初めてです」みたいなこと言ってて面白かった。

岡田拓郎

  • アルバム『Betsu No Jikan』がいろんな人を呼んでるからどんな編成でやるかよそうつかなかったけど、まさか石橋英子&山下達久のカフカ鼾が出るとは!(アルバムの方にはJim O’Rourkeが参加している。)フジロック石橋英子見たので今年二度目。
  • セットリストは3曲?ボーカル曲の「Moons」はわかる、次の曲もイントロが「Reflections / Entering #3」だったのでおそらくそう(後半は違うかもしれない)。最初の曲はなんだろう。新規のインプロかな。

Sam Amidon & Strings

  • 声がいいしバンジョー上手い...!
  • 日本人カルテットとの共演だが、当日に初めて顔合わせしたそう。息ぴったり。
  • トラディショナルなフォークの編成ながらエレクトロニカみたいな音の出し方をする。「Here Comes That Blood」なんか特に。

折坂悠太

  • 食事等でちょっと外していたためあまり見れず残念。

Billy Woods

  • 最低限の照明とアーティスト以降で撮影禁止のステージ。
  • めちゃくちゃ格好よかったに尽きる。フロウが神々しい。
  • バックトラックも、ファンク由来のキレ重視のものではなく、フリージャズのようなもので、重厚なうねりがある。
  • この人はどういう系譜なんだろうか?J Dillaみたいな?

Pino Palladino&Blake Mills 

  • とにかくすごい4人が集まったもんだ。
  • Pino Palladinoは、かのD'angelo「Voodoo」でベースを弾いている、というだけでも恐るべきレジェンド。その他John MayerThe Whoなど対応力がすごい。
  • Blake Millsも
  • ところでSam Gendelをフィーチャーした曲をもつアクトがこのフェスには多いな。岡田拓郎、折坂悠太、Sam Amidon、Sam Wilkes...(ちなみにそのどれにも登場はせず。)

新垣睦美

  • 沖縄伝統音楽の奏者とういうだけでなく、フィールドレコーディングを組み合わせたサウンドスケープ的な音楽。
  • 朝9時から全く別の時間に飛ばされたようでとても良かった。
  • そんなSEを流すMacbookは木目のカバーが被せられていてなんか微笑ましかった。

民謡クルセイダーズ

  • ベースの機材トラブルで急遽ウッドベース弾いてたけどすごいな。
  • 観て気づいたけどかなりLos Lobosを下敷きにしてる。
  • 演奏のテンションがヒートアップしていってとても楽しかった。

角銅真実

  • 後半しか観れてないけど最初から観れば良かったくらいに良かった。
  • この人はソロ名義でアルバム出す以前に「cero変拍子パーカッション叩きながらニコニコとコーラスする人」という印象が先にあった。
  • 今回そのソロでのSSWスタイルを観て、独自のタイム感でやってるのがすごいなと思った。
  • Sam Amidonが登場してコラボ曲披露。良い曲だった。

鈴木慶一 w/Marginal Town Screamers ft 上野洋子

  • しれっとタイムテーブルに組み込まれている大ベテラン(失礼)。しかも新しい編成。
  • 詩の朗読付きの完全即興。「ラバさん」連呼のループからの展開がすごかった。
  • 上野洋子もよくわからない音出してた。

Deerhoof

  • ドラマーのGregはなにもかもおかしい。爆叩き。
  • コール&レスポンスを要求されたが難易度が高いよあれは!
  • このフェスで一番ロックバンドの音だった!爆音ってきもちいい!

Sam Wilkes Quintet ft Chris Fishman, Craig Weinrib, Dylan Day, & Thom Gill

  • 帰りの新幹線も早めに取ってしまっていたので最後までは観れず。
  • ベースでシューゲイザーばりの音を出してて相変わらず圧巻。

その他、ロケーションなど

  • 天気に恵まれ、昼間は暖かくて半袖で過ごせた。特にキャンプ場とglass stageのあたりは日がよく当たるので暑いくらい。
  • キャンプ泊にしたが、夜もそこまで冷え込まなかった。マミーシュラフ+カバーでなんとかなるくらい。
  • メインステージから歩いて数分のところに銭湯あるのがありがたい。しかもその日に限って朝から入れる。

Khruangbin(11/17 豊洲pit)

  • 最強の3ピースバンドだということを改めて確認した。
  • Mark Speerのギターは奔放に弾いているようながらもディレイかけた状態でシンコペーションが綺麗に響くように合わせるところをカッチリと合わせてる。
  • Laura Leeのベースはバッキバキにコンプレッサーをかけ、休符の付け方が神がかっていた。「Summer Madness」のベースで意図的にずらしてるところがあったけどこれがかっこいい。
  • ドラムのDonald Ray "DJ" Johnson Jr.はさらに一段上の化け物。キックとスネアの切り方も、正確に美味しい音を刻むハイハットも最高。
  • ヒップホップカバーメドレーは矢継ぎ早に変わっていくのでなかなかわからなかった。Tom Tom Clubもやってた。

Big Thief(11/19 恵比寿ガーデンホール)

  • 「Flower Of Blood」の途中でベースに機材トラブルがあり、3人が長いこと穏やかな演奏で時間稼いでた。
  • トラブルが解消して戻ったタイミングで爆音で最高。
  • 「Simulation Swarm」のアルペジオのリフレインもAdrianne Lenker が弾きながら歌ってて上手い。そしてギターソロに入った瞬間の音量差が思ってた以上で痺れた。
  • そして「Not」のギターソロはまるでNeil Youngのような激情型長尺ギターソロ。
  • アンコール一発目の「Changes」は感涙もの。いいタイミング。
  • Jamesの特にアメリカンロックを体現したかのようなドラム捌きで最高だった。

The Comet Is Coming(12/2 渋谷WWW)

  • 3年前のフジロックで(正直知らずに)観れなかったのでリベンジ。
  • Shakabaのサックスは訳わからないくらいパーカッシブで、低音のフレーズの隙間に高音のフィルを入れるようなこととかする。
  • シンセソロからの「Unity」が特にスペーシーで格好良かった。
  • 終始ものすごいテンションとうねりあるリズム感が続く。人力アシッドハウス
  • Shakabaは曲間もニコニコしててナイスガイだった。

Arlo Parksを聴いての雑感(フジロックのステージとアルバム『Collapsed in Sunbeam』)

 Arlo Parksはロンドン出身のシンガーソングライター。2021年に20歳でリリースした1stアルバム『Collapsed in Sunbeam』はUKアルバムチャートの3位にランクインするなど、早くから注目を浴びている。

 

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 今年のフジロックでの出演では、現地でも配信でもDinosaur Jr.と時間が被っていたためそちらに流れた人も多いと予想していたが(そっちはそっちで観たかった)、Arlo Parksの出演していたRed Marqueeステージは入場制限がかかるほどだったらしい。

 

 彼女の音楽スタイルは(歌詞の方向性含め)おおむね2010年代のオルタナティブR&Bの流れを汲んでいる。権威性から解き放たれたベッドルームで鳴らされるビート。

 

 フジロックでの「Black Dog」演奏前の前のMCで、この曲はRadioheadの「House of Cards」から影響を受けてる、と語られていた。

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 演奏面においても、「Caroline」「Green Eyes」「Eugene」あたりの、クリーントーンのギターで弾かれるしっとりしたアルペジオは『In Rainbows』のJohnny Greenwoodを彷彿させる。いま『In Rainbows』を聴き直すと、その密閉され窒息しそうなサウンドデザインがオルタナティブR&B的な一面のあるアルバムだと感じる。

 

 Arlo Parksの話に戻る。悩みや不安を、多分むやみに奥深く踏み込むのではなく、受け止め包みこむようなポジティブなパンチラインが印象的な「Too Good」「Hope」がある。これらの曲ではRadiohead性は影を潜めて(重くなっちゃうからね)、シンプルなR&Bで歌われる。

 

 アルバム『Collapsed in Sunbeam』のインタールードとなるタイトル曲では、ある日常のワンシーンの描写の最後に「You shouldn't be afraid to cry in front of me」と語りかけられる。ここには続く楽曲を聴くための距離感を自然と縮めてくれる優しさがある。

 

 このアルバムでは曲題にもちょくちょく顕れるように、色によるイメージングが印象的である。歌詞にもアメシストターコイズといった色と関わりの深い石が登場する。フジロックのステージではヒマワリで装飾されたハッピーな雰囲気が演出された。そういった意味でも「In Rainbows」として日常を切り取る想像力の中に招待されているのかもしれない。

 

 ポピュラーカルチャーの中では「新しさ」はいつも重要な評価軸だが、それは必ずしも「新規性(Novelty)」を指すだけでなく、時代の声を拾った「新鮮さ(Freshness)」を指すこともしばしばあるように思う。Arlo Parksの音楽は見たことのない景色に連れてってくれるわけではなく、日常の中で自分のボキャブラリーの中から適切な言葉をかけるタイプのものだと解釈した。

 

『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』感想

 環境音楽で有名な音楽家ブライアン・イーノによるインスタレーションBRIAN ENO AMBIENT KYOTO』に行ってきた。

 場所は京都駅から歩いて五分かからないくらいの「京都中央信用金庫 旧厚生センター」。およそインスタレーションの開催される会場っぽくない名前のようにも思えたが、いざ着いてみると外観から歴史を感じさせる建物だった。

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ambientkyoto.com

 以下は簡単ながら鑑賞した順に展示の感想を。

 

IV 『The Ship』

 部屋は暗く、足元が見える程度のわずかな照明と非常用出口の光がある程度。ラウンジ用のベンチ(背もたれがないやつ。なんて名称なんだろう?)があり、そこか床に腰を下ろして音楽を聴くスタイル。部屋には積まれたスピーカーと、フェンダーのHot Rodと思わしきコンボアンプがいくつか。

 ここでは2016年のアルバム『The Ship』の組曲が流れており、一周で1時間弱程度。第一次世界大戦タイタニック号事件などにインスパイアされたアルバムらしい。

 本展の中でも音楽的には最もダイナミクスのある展示であり、ドラムやディストーションのかかったギター、イーノ自身による歌もあり、『Another Green World』などアンビエント以前のイーノ作品を思わせる。組曲の中にはVelvet Underground『I'm Set Free』のカバーもある。原曲が諦念を含んだ爽やかさに対して、こちらはもっと切実な状況を感じさせられた。

 これまでこのアルバムを聴いたことはなかったが、全体像を把握できるくらいには集中して聴ける環境だった。ナレーション等よく汲み取れなかった部分もあるのでそういったところはこれからアルバムを聴いていきたい。

The Ship

The Ship

music.apple.com

III 『Face To Face』

 正面のスクリーンには3人の顔写真が写されており、30秒くらいの間にゆっくりと別な人物の顔に変化していく。この変化はただクロスフェードするようなものではなく、顔のパーツや輪郭がピクセルレベルで移動していく。

 使用されている写真は全部で21枚らしい。人種や老若男女の混ざる顔のバリエーションにいくつもの断面が存在する。いるかもしれない、いたかもしれない人物の顔。また、1人の顔の変化に着目していると、隣の人物が別の人物に顔を変えている。

 1人の人間は変化するし、集団を構成する人間も移り変わっていく、社会の流動性に考えを馳せたりする。

 さまざまな顔が現れて消える中で、印象についての興味深い本を思い出す。イーノと仲のいいデイヴィッド・バーンも推薦している本であり、もしかしたらこれにインスピレーションを受けたのかもしれない。

 

『第一印象の科学――なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』 アレクサンダー・トドロフ

www.msz.co.jp

 

V 『The Lighthouse』

 上記二つを鑑賞した後に3階のトイレに行って、そこでも音楽が鳴ってることに気づき、この展示の意味がわかった。建物内でシームレスに音楽が流れていることそのものがこのインスタレーションらしい。先の『Face To Face』と『Light Boxes』も同じ音楽が使われている。音源化はされていないらしい。

 

II 『Light Boxes』

 横長の部屋に、光る四角が間を置いて3つ展示されている。壁にかかっており厚みがあるわけじゃないが、タイトルどおり「箱」と形容することにする。それぞれの箱に3色の光が配置されており、これまたゆっくりと時間をかけて別な色へと変化していく。

 一番左の箱は台の上に乗っており、正方形の中に台に接する辺から長方形が伸びる。それはまるでドアのようにも見える。

 真ん中の箱は正方形の中央に小さい正方形が存在する。一番左とこの箱では、中の四角・外の四角・バックライトで三種の色が構成される。

 一番右の箱は右辺と底辺から、途切れる形で線が伸びる。まるで簡易な建物の見取り図や気体の実験装置のようなものを思い起こす。仕切られたようにに3色が配置されるが、徐々に隣の部屋に染み出して色を変えていく。

 このインスタレーションにおいても、一つの箱を注視していると他の箱がすでに変化している。

 『Face To Face』から連想するのが社会や共同体であるなら、こちらは町のような空間の変化を思わせた。

 

I 『77 Million Paintings』

 一階の大部屋での展示。巨大なスクリーンに向かい置かれたソファで鑑賞する。

 正方形を中心として、3種の長方形スクリーンが風車のように4つずつ配置される。この長方形のスクリーンはそれぞれ次々に変化する抽象画を(おそらくランダムに)映し出す。バスキアポロックのようなグラフィティーアート。これは自動生成されているのだろうか?1時間以上見ていたが周期性はよくわからなかった。

 その中にはときに人間のシルエットや、文字のようなもの、ハートマークを見出すこともある。抽象の中に人間的なものを見つけ出すという現象について、何か名前はあったっけか。

 鑑賞している中で、幼児のお客さんが喋り出して、まるで音楽のエコー呼応するように聞こえたりする。その子供の母親はすぐに外に連れ出していたが、こういう偶発性も作品の面白さなんだと思うった(そこで合意をとるのが難しいから鑑賞のマナーというものがあるんだろうけど)。

 ところでこの展示のソファと冷房がとても心地よかった。たっぷり鑑賞して部屋から出たら廊下で待機してる人が並んでて少し申し訳なかった。

 

77 Million

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