2018年 アルバムレビュー

 年間ベスト!って銘打つような大それた感じじゃなく、備忘のようなもんです。

 

Dirty ProjectorsLamp It Prose

 失恋による気持ち悪いくらいのエモさと近年のR&B色を出したエッジーな前作とは対照的に、「Break-Thru」の軽やかさが印象的です。プリンスとレッド・ツェッペリンと同居したような器用ながらも大胆でさらにソウルフルな仕掛け満載の純粋にいいアルバム!「Bitta Orca」期を彷彿させる「Zombie Conqueror」も好きです。ダブステップワルツ?「(I Wanna) Feel It All」なんかもそうですが、現代的なリズム・ミックスとオーセンティックなジャズやロックとの融合に超人的な演奏力で彩ってて情報量が多く何度聞いても楽しめます。

 

Jeff Rosenstock『POST-

 痛快!!!普段はスプーンより重いものを持てないような軟弱な僕でもこれを聴くと地を打ち鳴らすゴリラになれます。一緒にゴリラになりませんか。安易なメロコアになりかねないところを圧倒的熱量でねじ伏せています。どっちかの夜が昼間なやつもこの「USA」で一撃!

 

Jeff Tweedy『WARM

 「Shmilco」より絶対こっち!!

 

角銅真実『Ya Chaika

 ceroのサポートでニコニコと変拍子を叩きながらコーラスするパーカスお姉さん(ceroの新譜も良かったですね)。そんなスーパープレイヤーのこのアルバムは蓋を開けてみればmmmとかJosephine Fosterのごとく透き通りながらもどこか毒々しいアシッドフォーク。くるりのカバーも圧巻。

 

Leonard Marques『Early Bird

 ロー・ボルジェスあたりの洗練された作曲を継承したブラジルはミナスのSSW。アンディ・シャウフなんかにも近いテイストです。今作はリズムボックスを押し出してより宅録的に。ガルシア・マルケスを読んでた時に特によく聴いてたのですが、南米に対するイメージが雑すぎますかね。短いけれどもとにかく甘く愛おしい歌ものたち。

 

Mount Eerie『Now Only

 昨年の『Crow Look At Me』と一緒に買いましたが、こちらの方がまだ救いのある印象。とはいえ二作を締める「Crow, Pt 2」の何とも荒涼としていること。「妻と娘との閉じた世界」のような一ではない孤立感と、それでいて亡くなった妻に捧げた2枚のアルバムを出した後あっさりと再婚すること、そのどちらも正直理解はできなかったが、理解できなくともそういうものなのだろうと『違国日記』の新刊を読んでそう思いました。孤独についてより繊細な知見を得たい方、もしくは人間関係マニアは『違国日記』を読みましょう。

 

七尾旅人Stray Dogs

 もうシンプルに「スロウ・スロウ・トレイン」で涙……。踏切の警報機とベースが重なり、少しずつずれる最後の部分とか特に。

 

Nathan Bowles『Plainly Mistaken

 僕らはみんなアパラチア山脈から来たということにはなりませんか。アメリカンプリミティブギター万歳!

 

Okkervil River『In The Rainbow Rain

 自らの幼少期の体験談から始まり、その後有名人の気管切開のエピソードを歌い、そしてレイ・デイヴィスのエピソードからかの名曲の旋律に繋げる「Famous Tracheotomies」は誰だって涙してしまうズルさでしょう。Eストリーバンドのごとく疾走する「The Dream and the Light」やメロウな「Don't Move Back To LA」など名曲多し!

 

くるりソングライン

 「その線は水平線」がリリースされたときには「これ、これだよ!」と歓喜せざるを得ませんでしたね。そう思うのも「everyobody feels the same」以来で、結局はオーバードライブ主体の彼らが好きなんですね。アルバム自体はそんなに好みじゃなかったんですけど、バックトラックがめくるめく変わってくアルバムタイトル曲なんかはいかにも鉄な岸田繁らしくてよいです。

 

Richard Swift『The Hex

 元The Shinsのメンバーで、プロデューサーとしてはFoxygen等の作品にも関わっていたそうです。恥ずかしながら名前を知ったのは鬼籍に入った後にリリースされたこの作品で、ここでの紹介も特段いままでの思い入れがあるようなものではありません。ノイジーなサイケソウルで、リバーブにはどこか鬼気迫るような響きがあります。過去作もどれも素晴らしいです。合掌。

 

Sandro Perri『In Another Life

 夜通し飲んだ後の朝のJR線のホームで聴いたのが最高でした。2017年に来日観たけど捉えどころのない人だな。

 

シャムキャッツVirgin Grafitti』 

 彼らがペイヴメントの「Cut Your Hair」をライブのレパートリーに入れてた頃から聴いてた身としては、何とも今までのいいとこどりでずるいな(もちろんいい意味で)と思います。「完熟宣言」なんかには久々に『たからじま』期のノリでなんか懐かしいです。アルバム特設サイトのインタビューで言ってましたが、「誰も傷つけない」アホなロックンロールドリームを歪ませたギターに乗せて歌った「BIG CAR」。その一方でNegiccoに提供した「She's Gone」の歌詞なんか見事。そりゃ男子校の部室的なノリが全てみたいな価値観は僕も好きじゃないけど、だからと言って都合の良い文脈でフェミニズムを用いて言論規制するのも違うだろうと(一言じゃまとめられない塩梅だ)。一番モテそう。個人的に一番好きなのは「俺がヒーローに今からなるさ」で、70年代のローリング・ストーンズ的な絶妙な緩いギターのくねくね感。

 

Stephen Whynott『From Philly To Tablas

  リリース自体は70年代後半ですが、「サイケデリック・フローターズ」シリーズとしてP-VINEからのリイシュー。寂しくも超然としていて「アシッドフォーク」で括っちゃうのも勿体ないです。声はヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターのピーター・ハミルにもどこか似ています。白昼夢にさらわれるような「Retreat Suite」の導入から「What Have You Seen」の物悲しいメジャーセブンスへ。文学的な世界。上手に生きられない人たちはこれを聴かないと。

 

サニーデイ・サービスthe City

 2018年の曽我部さんは何かが乗り移ったかのようにリリース量がとんでもなかったです。そしてドラマー丸山さんの死去。サニーデイ・サービスとして出したこのアルバムは2014年頃からのアウトテイクの寄せ集めのようなものらしく、前作以上の混沌です。荘厳なオルガンとノイズに包まれオートチューンで「Fuck You」と歌い上げる「ラブソング2」は、かつて珈琲と桜に彩られたネオアコバンドの姿を叩き壊します。「ジーン・セバーグ」のMVが先行で公開されたときには正気を疑うような不協和音と一切メロディアスさのない歌でゾクゾク。海外のエッジーR&Bに影響されたのはあるでしょうが、それ以前に剥き出しだったり人を食ったような態度が前面に出てて、曲・歌詞・演奏・録音・ミックスどれをとってもぶっ壊れてます。彼らがこんなアルバムを出すなんて5年前に誰が予想できたでしょうか。「熱帯低気圧」のような比較的いつもの彼ららしい曲に雨上がりのような救いを覚えるひとときの後、「シックボーイ組曲」で走馬灯のように色々なシーンが駆け巡り、冒頭のような荘厳さの「町は光でいっぱい」で締められます。主体的な物語ではなく、町の断片図。このアルバムが聞けて良かったです。