Arlo Parksを聴いての雑感(フジロックのステージとアルバム『Collapsed in Sunbeam』)

 Arlo Parksはロンドン出身のシンガーソングライター。2021年に20歳でリリースした1stアルバム『Collapsed in Sunbeam』はUKアルバムチャートの3位にランクインするなど、早くから注目を浴びている。

 

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 今年のフジロックでの出演では、現地でも配信でもDinosaur Jr.と時間が被っていたためそちらに流れた人も多いと予想していたが(そっちはそっちで観たかった)、Arlo Parksの出演していたRed Marqueeステージは入場制限がかかるほどだったらしい。

 

 彼女の音楽スタイルは(歌詞の方向性含め)おおむね2010年代のオルタナティブR&Bの流れを汲んでいる。権威性から解き放たれたベッドルームで鳴らされるビート。

 

 フジロックでの「Black Dog」演奏前の前のMCで、この曲はRadioheadの「House of Cards」から影響を受けてる、と語られていた。

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 演奏面においても、「Caroline」「Green Eyes」「Eugene」あたりの、クリーントーンのギターで弾かれるしっとりしたアルペジオは『In Rainbows』のJohnny Greenwoodを彷彿させる。いま『In Rainbows』を聴き直すと、その密閉され窒息しそうなサウンドデザインがオルタナティブR&B的な一面のあるアルバムだと感じる。

 

 Arlo Parksの話に戻る。悩みや不安を、多分むやみに奥深く踏み込むのではなく、受け止め包みこむようなポジティブなパンチラインが印象的な「Too Good」「Hope」がある。これらの曲ではRadiohead性は影を潜めて(重くなっちゃうからね)、シンプルなR&Bで歌われる。

 

 アルバム『Collapsed in Sunbeam』のインタールードとなるタイトル曲では、ある日常のワンシーンの描写の最後に「You shouldn't be afraid to cry in front of me」と語りかけられる。ここには続く楽曲を聴くための距離感を自然と縮めてくれる優しさがある。

 

 このアルバムでは曲題にもちょくちょく顕れるように、色によるイメージングが印象的である。歌詞にもアメシストターコイズといった色と関わりの深い石が登場する。フジロックのステージではヒマワリで装飾されたハッピーな雰囲気が演出された。そういった意味でも「In Rainbows」として日常を切り取る想像力の中に招待されているのかもしれない。

 

 ポピュラーカルチャーの中では「新しさ」はいつも重要な評価軸だが、それは必ずしも「新規性(Novelty)」を指すだけでなく、時代の声を拾った「新鮮さ(Freshness)」を指すこともしばしばあるように思う。Arlo Parksの音楽は見たことのない景色に連れてってくれるわけではなく、日常の中で自分のボキャブラリーの中から適切な言葉をかけるタイプのものだと解釈した。