2022年の音楽アルバム個人的ベスト20

 2022年はなんとなく「サブスクの自動再生のアルゴリズムに任せひたすら新譜を掘っていく」みたいなことをあえてやっていた。メディアにまだ名前のないようなものも見つけたりしてそれはそれで楽しかったが、やっぱりどうも個々への思い入れが少なくなってしまったように思う。

 あとやっぱり数をこなすと自分の好みの偏りが見えてくるのは面白かった。ざっくりジャンル分けするなら「70sっぽいSSW」「アメリカーナ」「音響系フォーク」「ある程度ポップ寄りなニューエイジアンビエント」「オルタナティブR&B」あたりかな。

 もう一月も終わるけど2022年のアルバム20選です。

20. John Carroll Kirby『Dance Ancestral』

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 ジャズやニューエイジをメインとして演奏する鍵盤奏者の新作は、より洗練されてビート感も強め。1曲目"Dawn Of New Day"では、ニューエイジ・ミュージックのレジェンドLaraajiを迎えている。

19. Bruno Berle『No Reino Dos Afetos』

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 痛快なくらいわかりやすいテープ一発どりのパーカッシブなボサノヴァ。この爽やかな空気感が続くだけで心地いい。

18. Cass McCombs『Heartmind』

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 アルバム冒頭の、 C#m7-5 → Cmaj7 → G の進行を歪んだギターで奏でるところからもう最高。爽やかな"Karaoke"とか、土臭い"Unproud Warrior"とか、フォークロックの芯を捉えたような演奏が沁みる。

17. Obongjayar『Some Nights I Dream of Doors』

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 ナイジェリア出身のロンドンのミュージシャン。エッジーな"Message in Hammer"や、サックスプレイヤーNubya Garciaを迎えた雄大な"Wrong for It"、内省的な"I Wish It Was Me"とバラエティーに飛んでるけど、全体的にポップ。音の一つひとつに力強さを感じる。

16. ROSALÍA『MOTOMAMI』

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 「DESPECHA」がTikTokから大ヒットしてもはや時の人だが、元はギター一本でフラメンコを弾き語りでデビューしたらしい。
フラメンコに加え、レゲトンとかアフロポップとかごちゃ混ぜカオス。
「あなたをHENTAIにしたい(意訳)」と歌われる"HENTAI"など、変に日本語も耳につくが、"SAOKO"なんかはアフリカ起源のスラングだったり、無国籍的に言葉が交わされる。

15. The Zenmenn『Hidden Gem』

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 「Outro Tempo」等で有名なアンビエントニューエイジの重要レーベル「MUSIC FROM MEMORY」からリリース。70~80sくらいの都会的なAORをベースに、隙間の多いアンビエンスで聴かせる作品。"Ordinary Time"のハーモニーなんかにウエストコーストぽさをたっぷり感じてニッコリ。

14. Florist『Florist』

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 アンビエントな電子音の小品と、穏やかな弾き語りで構成された2枚組。聞き逃してしまいそうな自然環境の音を拾ってるようで、静かながらも懸命な力強ささえ感じる。

13. The Comet Is Coming『Hyper-Dimensional Expansion Beam』

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 Shakaba Hutchings率いるトリオの2ndアルバム。Pファンクの系譜のような宇宙的ファンク・ジャズ。"PYRAMIDS"に顕著だが、アシッドハウスへの接近もあってスリリング。アートワークもかっこいい。

12. Aldous Harding『Warm Chris』

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 耳馴染みのいい古典的なポップのようで、よく聴いているといろんな声が登場する違和感に気づく。ある時は少女のような軽やかな声、ある時は酒焼けたように、ある時はどこか素朴で無頓着なように。いくつものキャラクターの使い分けは、"Tick Tock"のようにひとつの曲の中で行われることもあり、一体誰の声を聞いているのかわからなくなるような感覚が面白い。

11. Maria BC『Hyaline』

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 空間系エフェクターをかけて低弦のアルペジオを中心に惹かれるギターと、冷ややかに歌われる歌。
形式的にはベッドルームポップかもしれないが、むしろフィールドレコーディング的な「外の」感性で録られているようにも思えて、Mount Eerieなんかにも通じるものがある。

10. Perfume Genius『Ugly Season』

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 アルバム自体は2022年リリースだが、2019年に上映されたダンス作品「The Sun Still Burns Here」のために提供された楽曲群とのこと。
彼のディスコグラフィーの中でもとりわけ荘厳・シリアス。繊細な息遣いとパーカッシブな電子音の共存も見事。

9. Naima Bock『Giant Palm

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 ギリシャ出身、元Goat Girlのメンバーだった彼女がSub Popからリリース。地中海らしい穏やかさや、ブラジル的な情熱を携えた豊穣なフォーク音楽。組曲のような”Campervan”はまるでNeutral Milk Hotelのような圧巻。

8. SAULT『Untitled (God)』

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 2022年だけで5枚(そのうち4枚は11月に一気に)リリースした、謎の音楽集団SAULT。
それぞれポストパンク寄りなもの、ハードロック寄りなもの、アフリカンビートを強調したもの、クラシカルなものなどあるが、本作はゴスペル・R&B寄りで最も収録曲の多い一作。
捉えどころこそ少ないけど音数が少なく、タイトじゃない緩めなビートが心地いい。

7. Alex G『Cross the Sea』

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 かつて「オブスキュア」とも評された掴みどころのない宅録シンガーソングライターは、少しづつ輪郭を出すようになり、今作ではバンドサウンドが主体となる。
そんな彼なりの折り合いも見える中で、アルバム冒頭と"Miracles"で印象的な「After All」という諦念めいたフレーズがかえって切実に聞こえる。
でもやっぱり"Cross the Sea""Blessing"といった曲でドラッギーな電子音も消えてなかったり。

6. Sudan Archives『Natural Brown Prom Queen』 

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 アルバムタイトルやリードトラック"Selfish Soul"に表されるように、黒人女性として生きる困難さの中でアイデンティティを強く押し出したアルバム。
刺激的なハウスや抒情的なソウルバラードの数々。
”Homesick (Gorgeous & Arrogant)”をはじめとした、潰されたようなヴァイオリンは迫力がある。

5. caroline『caroline』

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 スローコア+チェンバーポップ、というベースのジャンルだけで言えばBlack Country, New Roadなんかと近いしMicrophonesなんかが好きなんだろうなという異次元の荘厳さを感じる。
”Good Morning (red)”を聴いていて思ったが、「権威的でオペラチックな男声が張り上げれられる」というだけでもなんとなく英国的なアイロニーを感じる。

4. Yves Jarvis『The Zug』

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 まるで60’sのサイケでジャングリーなソフト・ロックに、宅録感まるだしのローファイなボーカルが乗る。一曲の境目もよくわからないキラキラした楽曲群はCaptain Beefheartのようなつかみどころのなさもある。

3. Big Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』

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 録音や作曲の質にばらつきがありながらも、丸ごとパッケージングしてCD2枚組くらいのボリュームで出される作品というのは何かそれだけで好感を抱いてしまう。"Wake Me Up To Drive"なんかを聴くと、彼らなりの『69 Love Songs』を目指したのかなと思う。
意外なくらい全体的に脱力したカントリーが並ぶ中で、"Simulation Swarm"には背筋を正されるような緊張感があり、そう言った瞬間がたまらない。

2. Okada Takuro『Betsu No Jikan』

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 フォークやジャズとして豪華なゲスト陣だったり、John Coltraneの"Love Surpreme"の奇妙なカバーにまず目を奪われてしまうが、そんなシーンの話をするよりかは、これは「別の時間」と題されたアルバムであって、とにかく夜の海辺とかを歩きながら一人で聴くのがいいのだろうなと思う。"If Sea Could Sing"が白眉。

1. Raveena『Asha’s Awakening』

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 インド系アメリカ人ソウルシンガーの2ndアルバム。
これが一番良かったと思うのはやはり自分にとってのアクチュアリティがあったとしか言えず、
じゃあそれは何か、と因数分解すると、「」
"Kaathy Left 4 Kathmandu"なんかはまるでミツメみたいなゆるくも粘っこいビート。
 「メディテーション・ポップ」とでもいいたい、無理のないポジティブと心地よさのアウトプット。