FUJI ROCK FESTIVAL'23に三日通しで行ってきた。
観た全てのアクトではないが、それぞれの演奏などの感想や記録を残しておく。
1日目
Sudan Archives
昨年の新譜の中で好きな「Milk Me」からスタート。
擦弦楽器にモジュレーションかけてクラブミュージックに乗せるという点でArthur Russell を連想するカッコよさ。
「Selfish Soul」はこれからもアンセムであって欲しい強度の名曲。
Yves Tumor
レッドマーキー特有の低音のハウリングがかえってサイケデリック度を上げていて良かった。ボヤボヤした混沌の中でグラムロックみたいな装いのギタリストが弾きまくるのもまた映えた。本人は裸エプロンみたいな格好(パンツは履いていた)でお菓子を投げたりしていた。
Yo La Tengo
過去に単独で2回も観てながらも、Daniel CaesarやDenzel Curryを諦めてまでも観に行ってしまった(後者はちょっとだけ観れたけど)。
「インディーロックの至宝」という表現をよく見かける彼らだが、この3人にしか作れない時間というのは確かにある。
今回観て思ったのは自分はGeorgia のドラムがかなり好きだということ。特にアップテンポの曲だと、Jamesのモーターエンジンのような動力を感じさせるベースに対して、部品たちがぶつかり軋むように呼応する、そんなドラム。
The Strokes
Julian Casablancasがひたすらに「おもしれー男」だった。
歌詞を覚えておらず、1番と2番で同じ歌詞を歌ったり、ときには「ンアーアー」ともう歌えてなかったり。ベースのニコライには変な絡み方するし。Julianがそんなでもバンドはしっかり成立しているからすごい。
2020年の最新作から1stの名曲群まで並べてもしっかり一貫性があって、なおかつ淘汰されない強固さを感じた。
2日目
GEZAN with Million Wish Collective
新譜『あのち』の曲を中心に、総勢20名以上の編成でトライバルで厚みのある演奏を披露。
グリーンステージのモニターに、各メンバーががフォーカスアップされていき、それぞれの人生のこととか考え出してしまうと気持ちの置きどころがわからなくなってくる。
ゲストに下津光史やTOSHI-LOWらが出てきて愉快だった。
Weyes Blood
Karen Carpenterを想起させる歌声を軸に、澄んだ青空の下で歌うような、あるいは古い映画のような、退廃とノスタルジアのプリンセス。純白のドレスのマント(?)を楽しそうにヒラヒラさせるNatalieの振る舞いが印象的だった。
Andromedaのスライドギターパートがあまりに心地よかった。あとGod Turn Me Into Flowerも大好き。
演出が素晴らしかっただけにレッドマーキーの低音のハウリング具合が不釣り合いでそこだけ残念。
Caroline Polacheck
実験的なところもあるポップ・ディーヴァな印象だったが、ステージに立つと人柄の良さも際立っていた。
SOPHIEやSinead O'Connerに捧げた曲もあり。
ステージ上で共演もしたWeyes BloodことNatalie Laura Mailingとはその後仲良く箱根旅行もしたそう。
Slowdive
開演前の入念なサウンドチェックの甲斐もあって、音はとても良かった。
自分は「いかにもシューゲイザー」的な部分には疎外感を感じることもあったが、彼らのアルバムのうち最も好きな『Pygmalion』から「Crazy For You 」をやってくれたので満足。隙間のあるリズムが好きなんだ。
Cory Wong
Vulfpeckでイメージされるカチカチのパーティファンクもあれば、結構スロウな曲もあったりでショーマンとしてのメリハリがすごい。
あんまり詳しくなかったので彼をVulfpeckの正式メンバーだと思ってたがそうではないらしい。(そしてそのあたりにバンドの継続のための拘りがあるらしい)
Louis Cole
Cory Wongが光のパーティ・ファンクならこちらは闇のパーティ・ファンク。
ルイスのドラムを中心に、演奏の歯切れの良さに筋肉を感じる。
無茶振りソロに応えるサックス奏者もすごかった。ツッコミどころが多かったゆえにもっと彼のことたくさん知っておけば良かったな……。
長谷川白紙
深夜のレッドマーキーステージにならされる爆音エクスペリメンタルポップ。影絵のように気持ち悪いうごきを入れてくるのも良かった。これがブレインフィーダー……!(Louis Coleもそうだが)
3日目
Oki Dub Ainu Band
カラフトアイヌの伝統楽器トンコリの奏者のOKI率いるバンド。
「KON KON」で客に歌わせるパート。ちょっと複雑で長めだけど、去年のFRUEでのDeerhoofのそれよりは易しかった。
音源からはもっとクラブミュージック寄りかと思ってたけど、ベース・ドラムの生演奏を聴くとかなりグルーヴィだなと思った。
伝統音楽とポピュラー音楽の融合、このバンドでしか聴けないものがたくさんあって良かった。
John Carroll Kirby
100 gecsと悩みこっちを観た。
今年に鬼籍に入った坂本龍一・高橋幸宏に捧げる、と「戦場のメリークリスマス」「Rydeen」を披露。この日は他のアクト(FKJ、Neil Francis、Ginger Root)でもYMOメンバーの曲を取り上げており、改めてその空白を強く感じた。
1日目のYves Tumor のお菓子、2日目のWeyes Bloodの花に続き、卵形のシェイカーが投げて配られる。なんでレッドマーキーのアクトは何かを投げて配りたがるんだ。
ゲストボーカルにはアルバムでも共演したEddie Chacon。
Black MIDI
プログレッシブ/カオティックなパートで圧倒され呆然とさせられた後にノりやすいパートをご褒美のようにくれて、まるで依存症を生み出す仕組みみたいだった。「John L」の掛け合いが特に最高だった。
かつて新しい地平を切り開いてきたにもかかわらず全然生まれなかったKing Crimsonのフォロワーは、もしかしたらこのレベルまで来ないと許されなかったからかもしれない。
Weezer
Lizzoがなかなか始まらないグリーンステージを後にして、モタモタしてると人がいっぱいになりそうなホワイトステージへ。
「My Name Is Jonas」が始まってからはちゃめちゃにもう歌ったりノったり。Weezerの歴史のロードトリップというテーマのもとに一曲ずつ用意された映像も見事。個人的に一番良かったのはリヴァース1人の弾き語りから始まった「Only In Dreams」。
他の海外アクトが2、3センテンスの日本語MCでサービスしてる中でやたらとリヴァースはほぼ日本語でMCしててうますぎる。
もうロックは若さのみが取り柄になるようなエンターテインメントではとっくになくなっていて、ベテランの経験の厚みがしっかり今の音として聴けるという。
How cool is that?、って。
その他
天候
今回は1日目に少し雨が降ったのを除いておおむね晴天だった。……と書くと「天候に恵まれた」という印象が出てしまうが、真夏のカンカン照りなので暑い暑い。でも風の心地よさもあり、東京よりマシなんじゃないかと思ってしまう。
そしてちょっと降った雨については、上着とポンチョを持ってくるのを忘れた(というか一回出した後しまい忘れた)。四年前のフジロックでは大雨にやられて体調崩したというのに、舐め過ぎているのではないだろうか、自分。
会場や運営
いろんなところで言われてるけど、電波が悪いせいで出店の電子決済のオペレーションがとにかく遅く、結果として現金での支払いが増えたり、行列が長くなっていたのがちょっと不満だった。
オレンジカフェエリアは音楽もなく殺風景だったと言われてたが、夜に遠くからの音に耳を澄ましながら静まり返った喫煙所に行くのとかは楽しかった。
おしまい。