『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』感想

 環境音楽で有名な音楽家ブライアン・イーノによるインスタレーションBRIAN ENO AMBIENT KYOTO』に行ってきた。

 場所は京都駅から歩いて五分かからないくらいの「京都中央信用金庫 旧厚生センター」。およそインスタレーションの開催される会場っぽくない名前のようにも思えたが、いざ着いてみると外観から歴史を感じさせる建物だった。

f:id:otoma4ppo:20220718201613j:image

ambientkyoto.com

 以下は簡単ながら鑑賞した順に展示の感想を。

 

IV 『The Ship』

 部屋は暗く、足元が見える程度のわずかな照明と非常用出口の光がある程度。ラウンジ用のベンチ(背もたれがないやつ。なんて名称なんだろう?)があり、そこか床に腰を下ろして音楽を聴くスタイル。部屋には積まれたスピーカーと、フェンダーのHot Rodと思わしきコンボアンプがいくつか。

 ここでは2016年のアルバム『The Ship』の組曲が流れており、一周で1時間弱程度。第一次世界大戦タイタニック号事件などにインスパイアされたアルバムらしい。

 本展の中でも音楽的には最もダイナミクスのある展示であり、ドラムやディストーションのかかったギター、イーノ自身による歌もあり、『Another Green World』などアンビエント以前のイーノ作品を思わせる。組曲の中にはVelvet Underground『I'm Set Free』のカバーもある。原曲が諦念を含んだ爽やかさに対して、こちらはもっと切実な状況を感じさせられた。

 これまでこのアルバムを聴いたことはなかったが、全体像を把握できるくらいには集中して聴ける環境だった。ナレーション等よく汲み取れなかった部分もあるのでそういったところはこれからアルバムを聴いていきたい。

The Ship

The Ship

music.apple.com

III 『Face To Face』

 正面のスクリーンには3人の顔写真が写されており、30秒くらいの間にゆっくりと別な人物の顔に変化していく。この変化はただクロスフェードするようなものではなく、顔のパーツや輪郭がピクセルレベルで移動していく。

 使用されている写真は全部で21枚らしい。人種や老若男女の混ざる顔のバリエーションにいくつもの断面が存在する。いるかもしれない、いたかもしれない人物の顔。また、1人の顔の変化に着目していると、隣の人物が別の人物に顔を変えている。

 1人の人間は変化するし、集団を構成する人間も移り変わっていく、社会の流動性に考えを馳せたりする。

 さまざまな顔が現れて消える中で、印象についての興味深い本を思い出す。イーノと仲のいいデイヴィッド・バーンも推薦している本であり、もしかしたらこれにインスピレーションを受けたのかもしれない。

 

『第一印象の科学――なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』 アレクサンダー・トドロフ

www.msz.co.jp

 

V 『The Lighthouse』

 上記二つを鑑賞した後に3階のトイレに行って、そこでも音楽が鳴ってることに気づき、この展示の意味がわかった。建物内でシームレスに音楽が流れていることそのものがこのインスタレーションらしい。先の『Face To Face』と『Light Boxes』も同じ音楽が使われている。音源化はされていないらしい。

 

II 『Light Boxes』

 横長の部屋に、光る四角が間を置いて3つ展示されている。壁にかかっており厚みがあるわけじゃないが、タイトルどおり「箱」と形容することにする。それぞれの箱に3色の光が配置されており、これまたゆっくりと時間をかけて別な色へと変化していく。

 一番左の箱は台の上に乗っており、正方形の中に台に接する辺から長方形が伸びる。それはまるでドアのようにも見える。

 真ん中の箱は正方形の中央に小さい正方形が存在する。一番左とこの箱では、中の四角・外の四角・バックライトで三種の色が構成される。

 一番右の箱は右辺と底辺から、途切れる形で線が伸びる。まるで簡易な建物の見取り図や気体の実験装置のようなものを思い起こす。仕切られたようにに3色が配置されるが、徐々に隣の部屋に染み出して色を変えていく。

 このインスタレーションにおいても、一つの箱を注視していると他の箱がすでに変化している。

 『Face To Face』から連想するのが社会や共同体であるなら、こちらは町のような空間の変化を思わせた。

 

I 『77 Million Paintings』

 一階の大部屋での展示。巨大なスクリーンに向かい置かれたソファで鑑賞する。

 正方形を中心として、3種の長方形スクリーンが風車のように4つずつ配置される。この長方形のスクリーンはそれぞれ次々に変化する抽象画を(おそらくランダムに)映し出す。バスキアポロックのようなグラフィティーアート。これは自動生成されているのだろうか?1時間以上見ていたが周期性はよくわからなかった。

 その中にはときに人間のシルエットや、文字のようなもの、ハートマークを見出すこともある。抽象の中に人間的なものを見つけ出すという現象について、何か名前はあったっけか。

 鑑賞している中で、幼児のお客さんが喋り出して、まるで音楽のエコー呼応するように聞こえたりする。その子供の母親はすぐに外に連れ出していたが、こういう偶発性も作品の面白さなんだと思うった(そこで合意をとるのが難しいから鑑賞のマナーというものがあるんだろうけど)。

 ところでこの展示のソファと冷房がとても心地よかった。たっぷり鑑賞して部屋から出たら廊下で待機してる人が並んでて少し申し訳なかった。

 

77 Million

77 Million

music.apple.com